新作写本零葉の制作プロセス

久しぶりに装飾写本の零葉を作りました。その制作プロセスの写真を少し詳しく掲載します。

① 羊皮紙(ヴェラム)です。横筋が見えますが、これは動物の血管の痕です。これを今回はB5サイズにカットして、マット用に1㎝ の余白を残してページレイアウトをします。
② テクストを書くスペースと装飾を描くスペースの割り付けをします。写本のマージンは W. モリス が提案して知られるようになった中世装飾写本に関する「モリスの法則」に則して割り振りました。詳しくは「澄明庵だより(3)」をご覧ください。
③ テクストスペースに罫線を引き、テクストを書き込みます。その後装飾の大まかな図案とレイアウトを下書きします。
④ ボーダーの装飾は写本の見開き左側のページがほとんどですので、右側の綴じスペースは最少になります。右マージンの2倍のスペースが左の装飾スペースになります。下絵をもとに具体的なモチーフ原図を描きます。
⑤ 下絵がほぼ完成したら、ゴールインクではっきりと輪郭線が出るように仕上げをします。この段階でテクストと図柄が完全に乾くまで半日ほど乾燥し、そのあと下書きの線を消します。現代は鉛筆と消しゴムがありますので、この作業は簡単ですが、中世の時代は罫線は簡単に消せませんので、一般的にはすべて残っています。それはそれで味があるのですが。
⑥ 光の量を変えて撮影するともう少しはっきりと確認できるかもしれません。
⑦ 下書きの線を消してきれいになった画面です。ゴールインクは、完全に乾いたら、消しゴムで擦ったぐらいでは消えたり変色したりすることはありません。
⑧ 次に金箔を貼るための下準備として、ジェッソを盛る部分に(私の場合は)黄色のマーカーを塗ります。塗り忘れのないようにするための知恵です。
⑨ いよいよジェッソを盛ります。薄いピンクの部分がジェッソを盛った部分です。表面張力を利用してすこし丸く盛り上がるように仕上げます。金箔を貼った時にどの角度からも光を反射するようにするためです。
⑩ ジェッソが完全に乾くまで半日から1日ぐらい放置します。夏は湿度が高く、冬は乾燥しますので、ジェッソの接着成分を微妙に調整しなければなりません。失敗すると金箔が剥がれるか、いつまでも乾かずにべとべとする失敗作となってしまいます。今回はとても良くできました。
⑪ 金箔を貼ります。この金箔を貼るプロセスに関しては「写本をつくる」も御覧ください。
⑫ 金箔が完全に乾いていませんので磨きはできていませんが、光の反射の様子を見るとどの角度からでも反射しているのがわかります。
⑬ 左上の部分を拡大したものです。
⑭ 左下の部分の拡大写真です。
⑮ ななめ左から全体を見ると、光の反射具合をよくわかります。
⑯ 真正面からの反射の様子です。
⑰ 今度は右側からの様子です。ジェッソが盛り上がり、しっかりと光が反射していますね。
⑱ 金箔を貼り終えたら、いよいよ顔料を塗ることになります。色の選択は自由ですが、中世の写本にはあまり多くの種類の顔料は使われていません。今回のこの零葉にも基本色は5色しか使っていません。
⑲ 他の色も付けてみます。
⑳ 全体に顔料を塗り終えたら、ファイナルタッチの前に、角度を変えて全体のバランスを確認します。これは左前からの様子です。
(21)右前の方から全体を見た様子です。
(22) 正面から見た色彩と金箔のバランス。
(23) 仕上げをしました。光と色のバランスは如何でしょうか。
(24)完成です。この後台紙に張り、さらにマットを載せて額(この場合はA3 ) に入れれば見栄えのする室内装飾品のひとつになると思います。

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