澄明庵は、イギリス中世の言語と文化を研究してきた庵主が、静寂な自然環境の中でそのリズムに合わせて晴耕雨読の生活をしながら、装飾写本を制作・紹介するために結んだ庵です。中世という時代は、今日私たちがごく当たり前の事実と思っている印刷術やITがない時代でした。情報伝達の主要な手段は写本と呼ばれる手書きの本でした。写本は過去の歴史や出来事を時間と記憶を超えて伝える唯一の手段でした。しかし写本は制作するのにたくさんの時間と労力がかかるうえに、大変高価でした。その意味で、本(写本)を読むということは、識字率の問題もありますが、王侯貴族や富裕階級の人々に特権的に許された技能ということができます。このように、写本を所有し読むということは、非常に限られた知的環境の中で享受されていたのですが、写本には現代人の想像をはるかに超える芸術的美しさがあります。作る職人も制作を依頼する王侯貴族や富裕者たちも写本に美しさを求めていたからです。美しい写本のページを見ながら、声を出して読む。同じ写本を何度も何度も読む。そこには美しく装飾された本を読む喜びがありました。澄明庵の庵主は、装飾写本に限らず、中世に生きるひとびとが日常使っていた品々にはすべてこのように「作る喜び」と「使う喜び」があったと考えています。装飾写本の制作を通して、現代生活で失われてしまった様々な生活の在り様、「素朴でスローではあるが美的、芸術的要素を見失なうことなく、手作りの日常を受け入れる生き方」を考えて見ようというのが澄明庵の想いです。四季を通じて折々に咲く花の紹介やW. モリスや柳宗悦の民芸に対する想いなども紹介できればと思います。共鳴いただける方には、時々澄明庵のHPを訪れていただければ幸いです。
澄明庵 庵主