豆本(miniature book)と初期印刷本について

澄明庵所蔵の豆本と印刷本について紹介します。

1)豆本(Miniature book)

澄明庵には 1930 年代に出版された豆本が1冊あります。その歴史は 16 世紀に始まると言われています。手のひらに収まるサイズの本で、「主の祈り」などの聖書の文言を手書きで書いたものなどがあったようです。産業革命以降に豆本への関心は再燃し、旅をする際に持ち歩く本として人気を集めたようです。世界最小の豆本は第2次大戦後にドイツで出版されたもので、5.5 mm のサイズの本だそうです。活字は 0.18 mm で1ページに 70 文字印されているようですが、どうやって読むのでしょうか。澄明庵の豆本の大きさは 5 ㎝x4.5 ㎝。1930 年に出版されたもので、△万円しました。以下に紹介いたします。

豆本があまりに小さいので、それを収納保存するためのケースを作りました。写本仕様にしてあります。
これが豆本です。Thomas Gray の Elegy Written in a Country Churchyard を印刷したものです。
ケースに比べて豆本がいかに小さいかがわかります。右ページの小さな箱に本が収まります。中にあるのは限定出版の証明書です。
立体画像です。豆本がいかに小さいか相対的に理解できると思います。
本を収納した様子です。収納ケースの内貼りは写本に使う羊皮紙を使いました。

豆本のタイトルページです。                   

2)17世紀印刷本

澄明庵には17世紀以降にイングランドで出版された印刷本がいくつかあります。今回は特に1600年代に出版された本を2冊紹介します。はじめは何と言ってもチョーサー作品集です。揺籃期本の時代にウィリアム・カクストンがチョーサーの『カンタベリー物語』を印刷して以来、16世紀になると盛んにチョーサーの作品が印刷出版されるようになります。中でも作品集は幾度となく出版され、この流れは現代にいたるまで続きました。今回紹介するのは1687年に出版されたトマス・スピート(Thomas Speght)の The Works of Jeffrey Chaucer です。

見開きのタイトルページです。右下にロンドンで1687年(MDCLXXXVII)に出版されたことが記されています。
左ページに編者 Thomas Speght の名があります。
チョーサーの伝記が続きます。左ページの一番下にThe という写本時代のキャッチワードが付けられています。右ページの冒頭の語と同じです。
本文冒頭のページです。
ヘンリー8世への献辞です。この全集が出版されたのは1687年ですからヘンリー8世の治世ではありませんが、最初にウィリアム・シンにより全集が出版された時の献辞がそのまま使われているのです。
『カンタベリー物語』の「総序(General Prologue)」のページです。
見開きで撮影した同じ「総序」です。
「総序」が続きます。
「総序」が終わり、「騎士の話(The Knight’s Tale)」が始まります。

次は リチャード・ヴァ―スティガン(Richard Verstigan)が1653年に出版した最初の民族史ともいうべき歴史書で、ルーツがアングロ・サクソンであると主張します。時代の複雑なイデオロギーを反映していることが分かります。

かなり傷んでいる本ですが、1653年の出版年号が右下に見えます。
先ほどのチョーサーの全集ではヘンリー8世への献辞が踏襲されていましたが、この本ではジェームズ1世になっています。
目次のページです。アングロ・サクソンがイングランドの正統な始祖であるという議論を歴史的に示そうという目次内容です。中世までの歴史書はほとんどが王家の歴史で、その正当性を示す意図でまとめられていますが、民族全体の正統な歴史を記述しようとする試みは、いかに当時の政治・宗教的イデオロギーが複雑であったかを物語っていると思います。
第1章です。イングランド人はゲルマン民族を起源とすることが第1行目から書かれています。ちなみに、著者はオランダ起源の移民の子です。まさしくゲルマンです。
どのように書かれているか、じっくりと読んでみてください。

ヴァ―スティガンのこの本は現在復刻版で出ています。興味のある方はそちらをお読みください。

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